
Agentic Vision(エージェンティック・ビジョン)とは、一言で言えば「AIが道具を使って、画像を論理的に分析する技術」です。 Googleの最新モデル「Gemini 3 Flash」などに搭載されているこの機能は、単に画像を見るだけでなく、その背後にあるデータをプログラムで検証することで、圧倒的な精度を実現しました。
では、具体的に何がすごいのでしょうか。従来のAIと比較して解説します。
従来の画像認識AIとの決定的な違い

これまで主流だった画像認識AI(VLM:視覚言語モデル)は、確率論に基づいた「直感的な推測」で回答していました。 例えば、リンゴがたくさん入った箱の画像を見せたとき、従来のAIはパッと見た印象で「だいたい10個くらいでしょう」と答えます。これは人間で言うところの「目分量」です。そのため、それっぽいけれど間違っている「ハルシネーション(事実に基づかない情報の生成)」が頻繁に起こりました。
一方、Agentic Visionは「検証」を行います。 目分量で答えるのではなく、「ちょっと待ってください、今から数えますね」と言って、指差し確認を始めるようなものです。推測ではなく、事実に基づいたデータを返してくれる点が決定的な違いです。
Pythonコードを「道具」として使う仕組み
Agentic Visionの最大の特徴は、AIが自律的にPythonコード(プログラミング)を生成・実行する点にあります。
わかりやすく例えてみましょう。
- 従来のAI
画像を見て「この棒はたぶん10cmくらい」と感覚で答える人。 - Agentic Vision
画像を見た後、「定規(Pythonコード)」を取り出してピクセル数を計測し、「計算上、正確に10.2cmです」と答える人。
ユーザーであるあなたがプログラミングをする必要はありません。あなたが「このグラフの数値を教えて」と頼むと、AIが裏側で勝手に「グラフの線を座標データとして読み取るプログラム」を書いて実行し、その計算結果をあなたに教えてくれるのです。これにより、人間の目視よりも正確な分析が可能になります。
Gemini 3 Flashなど対応モデルについて
この機能は現在、GoogleのAIモデル群「Gemini」の中でも、特に処理速度とコストパフォーマンスに優れた「Gemini 3 Flash」などの最新モデルで利用可能です。 Googleは、AIを単なるチャットボットから、自ら考えて道具を使う「エージェント(代理人)」へと進化させており、Agentic Visionはその画像認識分野における中核技術として位置づけられています。
Agentic Visionの特徴と3つのメリット

仕組みがわかったところで、この技術を使うことでユーザーにどのようなメリットがあるのか、大きく3つのポイントに絞って解説します。
「ハルシネーション(事実に基づかない情報の生成)」の激減
最大のメリットは、AI特有の「誤情報の生成」が劇的に減ることです。 従来のAIは、画像内の文字が潰れていて読めない場合でも、前後の文脈から「たぶんこういうことが書いてあるだろう」と勝手に想像して事実と異なる回答をすることがありました。
しかし、Agentic Visionはコードを実行して「データが読み取れません」と判断したり、ピクセル情報を解析して文字を特定したりします。「推測」ではなく「計算結果」を返すため、ビジネスの現場でも信頼して使えるレベルの回答が得られます。
小さな文字や複雑なグラフの正確な読み取り
Agentic Visionは、人間が見落とすような詳細な情報の抽出に長けています。
- 複雑な折れ線グラフ
線が重なり合ったグラフでも、色分けや座標をコードで認識し、正確な数値データとして抽出できます。 - 小さな注釈文字
画像の解像度が許す限り、OCR(光学文字認識)だけでは誤認識しやすい小さなフォントも、画像処理技術を組み合わせて正確にテキスト化します。
「画像になっている表をExcelに戻したい」といった場面では、従来の手入力や精度の低いOCRツールとは比べ物にならない効率を発揮します。
物体カウントと空間把握能力の向上
「この写真の中に、赤い車は何台ありますか?」 「棚にある在庫の数は全部でいくつですか?」
こうした「数を数える(カウンティング)」タスクは、従来のAIが最も苦手とする分野の一つでした。しかし、Agentic Visionは、画像内の対象物を一つひとつバウンディングボックス(枠)で囲んで検出し、プログラムでその数をカウントします。
また、「A地点とB地点の距離感」や「家具の配置バランス」といった空間的な推論も、座標計算を用いることで、数学的に正しい回答を導き出すことが可能です。
Agentic Visionの使い方と導入ステップ

「すごい技術なのはわかったけれど、使うのが難しそう……」と思った方も安心してください。 現在は、エンジニアでなくても「Google AI Studio」という無料(条件あり)のツールを使えば、ブラウザ上で簡単に試すことができます。ここでは初心者向けの手順を紹介します。
Google AI Studioでの始め方(初心者向け)
プログラミング知識は不要です。以下の3ステップで環境が整います。
Googleアカウントで「Google AI Studio」にログインします。
画面右側の設定パネルにある「Model」のプルダウンから、Agentic Visionに対応している「Gemini 3 Flash」(または最新の対応モデル)を選択します。
同じく設定パネル内にある「Tools」または「Advanced Settings」の項目を探し、「Code Execution」という機能にチェックを入れます。これだけで、AIがPythonを使える状態になります。
※画面構成や項目の名称は、Google AI Studioのアップデートにより変更される場合があります
実際のプロンプト入力と実行例
設定ができたら、実際に画像をアップロードして指示を出してみましょう。
- 画像のアップロード
「+」ボタンから解析したい画像(例:商品が並んだ棚の写真)を選びます。 - プロンプト入力
「この画像に写っている商品の数を、コードを実行して正確に数えてください。また、それぞれの商品の位置を座標で示してください。」
このように入力して実行すると、画面上に「Writing code…(コードを作成中)」や「Executing code…(実行中)」といった表示が出ます。これはAIが裏側でPythonを動かしている合図です。数秒後には、「合計で34個です」といった正確な回答が表示されます。
開発者向け|API連携の基礎知識(概要のみ)
エンジニアの方が自社アプリにこの機能を組み込みたい場合は、Google AI Studioで検証したプロンプトをそのままAPIとして利用できます。 「Dynamic Tooling」の設定を行うことで、ユーザーの質問内容に応じて、モデルが自動的に「通常の回答」をするか「Agentic Vision(コード実行)を使うか」を判断させることも可能です。公式ドキュメントのgoogle-genaiライブラリを参照することをおすすめします。
Agentic Visionの具体的な活用事例

機能と使い方がわかったところで、具体的に「仕事や生活でどう役立つのか」を見ていきましょう。Agentic Visionは、特に正確性が求められるタスクで真価を発揮します。
ビジネス活用|不動産実務と管理業務の効率化
不動産管理や建築の現場において、即戦力となります。
紙でしか残っていない古い物件の手書き図面を読み込み、壁の長さや面積を数値データとして抽出。リフォーム計画の立案やCADへの移行作業を大幅に短縮できます。
建築現場の写真を解析し、資材の数量をカウントしたり、作業員のヘルメット着用状況を確認したりと、遠隔からの状況把握や報告書作成の補助として活用できます。 もちろん、経理業務におけるレシートや請求書の正確な読み取りにも威力を発揮します。
データ分析|図表からの数値データ抽出
マーケティング担当者や研究者にとっても強力な武器になります。
「古い資料で、グラフの画像しかない。元のExcelデータが欲しい……」という場合、Agentic Visionにそのグラフを読ませれば、プロットされている点の位置を解析し、CSV形式の数値データとして復元してくれます。これまで定規を当てて目分量で測っていた作業が一瞬で終わります。
日常生活|図面や地図の解析
引っ越しやDIYといった身近なシーンでも活躍します。
部屋の間取り図を読み込ませ、「この壁に幅180cmのソファは置ける?」と質問すれば、縮尺(スケールバー)を認識して計算し、「壁の幅は約250cmなので、設置できる可能性があります」といった判断の補助として活用できます。
※AIによる計測はあくまでシミュレーションであり、図面の縮尺精度等により誤差が生じる場合があります。実際の購入や家具配置の際は、必ず現地で実測を行ってください。
Agentic Vision利用時の注意点とデメリット
万能に見えるAgentic Visionですが、導入前に知っておくべき注意点もあります。従来のAIとの違いを理解して使い分けましょう。
回答までの時間(レイテンシ)について
Agentic Visionは、「コードを書く」→「実行する」→「結果を検証する」というプロセスを経るため、通常のチャットAIよりも回答までに数秒〜十数秒程度の時間がかかります。 リアルタイム性が求められる会話(例:音声対話での即答)には向いていません。じっくりと考えて正確な答えが欲しい場面で使うのが鉄則です。
コストとトークン消費の考え方
APIを利用してシステムに組み込む場合、コストにも注意が必要です。 通常のテキスト生成に加え、「生成したプログラムコードの分」や「実行結果の出力分」もトークン(課金対象の文字数)としてカウントされます。大量の画像を連続で処理させる場合は、Gemini 3 Flashのような低コストモデルを選定するか、必要な時だけ機能をオンにする工夫が重要です。
まとめ|Agentic VisionでAIの目は「推測」から「確信」へ
この記事では、Googleの最新技術「Agentic Vision」について解説してきました。 要点を振り返りましょう。
- 従来のAIは「直感(確率)」で見ていたが、Agentic Visionは「検証(コード実行)」で見る。
- AIが自らPythonを使って計算するため、ハルシネーション(嘘)が激減し、数値やカウントの精度が飛躍的に向上した。
- Google AI Studioを使えば、プログラミング知識がなくても誰でもすぐに体験できる。
Agentic Visionの登場により、AIによる画像認識は「なんとなくわかる」レベルから、「業務で信頼して使える」レベルへと進化しました。これは単なる機能追加ではなく、AIが「思考する眼」を持った歴史的な転換点と言えます。
百聞は一見に如かずです。まずはGoogle AI Studioにアクセスし、手元のグラフや写真をアップロードして、「コードを実行して分析して」と頼んでみてください。 その精度の高さに、きっとあなたも驚くはずです。AIの新しい視覚を手に入れて、あなたの業務や生活をアップデートしましょう。
